1と白と○

いつものガールズスキャンダル

「今まで好きだった人を、いきなり嫌いになっちゃうことほど、悲しいことはないよね」
「そうだね」

 購買で一緒に買ったメロンパンを頬張りながら頷く。

「人を嫌いになることって、すごく勿体無いと思うし、私は苦手だな」
「確かにね」

 うんうん、と頷きながら、綺麗ごとだ、と心の中で呟いた。きっと、ナツは心底嫌いだと思った人間が居ないから、そんなことを言えるのだ。だけど、私はナツの言葉に同調して頷いた。喧嘩して何でも言い合える仲になるよりも、上辺だけの穏やかな仲を望んでいる自分が居る。自分の性格の悪さをひけらかすような陰口を聞くよりは、ナツの綺麗ごとを聞くほうが何倍もマシ。
 こんな話になってしまったのも、購買に行く途中、たまたま女子の陰口を聞いてしまったからだ。

 「あの子、超ぶりっ子だよねー」「あいつ言ってたよ、○○くんだったら簡単に落とせるって」「うわ、サイアク。マコが付き合ってるの、知らないのかな」「知らないんじゃない? や、知らないとしても性格悪すぎでしょ」「もうあの子無視ろうよ」「えー、でも無視はちょいやりすぎじゃない?」「そんぐらいやんなきゃ分かんないって」

 今さっき聞いた会話だからだろうか。彼女たちの悪口が一字一句飛ばされることなく脳内再生された。
 良い友達関係を築くのに必要なものは、ある程度の距離感とある程度の価値観の違いだと思う。毎日毎日くっついてれば、お互いの嫌な面なんて自然と見えてくるし、その上似たもの同士だと最悪。この子と私は違うんだって割り切れないから、変な対抗意識とか持っちゃうんだよね。お互いに同じような不満を持って、影ではお互いの悪口言い合って、でも、表ではお互いにへらへら笑ってくっつくんだ。バカみたい。
 私とナツは、その点で言うと、良い友達関係、なんだろうか。クラスも違うし、たまに、昼休憩で一緒にご飯を食べてるだけ。価値観なんて、一応合わせてるけど、私とナツは考えてることが全然違う。考え方が全く違うんだと思えば、普通に聞き流せるし、その考えを否定しようとも思わない。一緒に居て楽しいってわけじゃないけど、一緒に居て楽な関係だ。
 そんなことを考えていると、紙パックのイチゴミルクを吸い込んだナツが顔を顰めた。

「これ、甘ったるいね」

 「そう?」と聞き返しながら、私も同じイチゴミルクの紙パックにストローを突き刺し、吸い込む。イチゴミルクは、ナツの言葉を同じぐらい甘くて、現実味のない味だった。

「ほんとだ。砂糖入れすぎなんだよ、きっと」

 私とナツはきっと良い友達関係だ。ただ、この「良い」は、イコール無難って言葉に結びつきそう。最近、その無難を壊しちゃったらどうなるのかなって、考えたりする。

「あ」

 ナツは、声を上げて、あさっての方向を向いて、ぱちぱちと目を瞬かせ、甘さたっぷりの表情で私を見た。嬉しそうに身を乗り出して、私に耳打ちする。

「ねえねえ、今さっき、目が合っちゃった!」

 ナツがさっき見ていた方向に視線を移すと、大山くんが目に入った。もう、こっちを向いてない。他の男子と話してる。相変わらず、笑ったときの歯並びがひどく綺麗な人だと思った。

「私はね、好きだなあって思うだけで笑顔になれるよ。好きって気持ちは、いくらでも膨らませることが出来るし」
「そう」

 私は出来る限り、ナツとの温度差を感じさせないように、笑みを浮かべた。ナツは幸せそうにメロンパンを頬張る。私はまた、甘ったるいイチゴミルクを飲む。
 私がナツの好きな大山くんに告白されたって聞いたら、ナツはどんな顔をするだろう。
 ナツの甘くて綺麗な理論は、私に対しても通用するんだろうか。そう思いながら、私はイチゴミルクを飲んでいたストローを前歯で噛んだ。
  • [ CLAP ] inserted by FC2 system